前回は対提示手続きで好子をつくる方法、理由についてお話しました。
今回は同じ対提示手続きによる、習得性嫌子についてお話したいと思います。

嫌子とは・・・?
オペラント条件づけ

動物(人)が、行動した直後に
何かが起こると
その行動は起こりにくくなる

この何かが起こるにあたるのが嫌子で、動物(人)が嫌いな、嫌がる物や事すべてでしたよね。
この嫌子を確立する手続きは好子の時と同じです。
動物(人)のもともとの嫌子(生得性嫌子といいます。例:歯の治療時の痛み)と何の意味ももたなかった『刺激』や『出来事』も嫌子(習得性嫌子といいます。例:治療の際の音)になる訳です。
 
生得性嫌子 他の好子と対提示しなくても嫌子である「刺激・出来事・条件」のこと
例:身体の痛み / 恐怖心
習得性嫌子他の好子と対提示されることで、嫌子として機能を持った「刺激・出来事・条件」のこと
例:「ダメ」の言葉 / お化け屋敷の看板


例えば、私たちの生活の中でしたら、歯医者でよく聞く『ウィ〜ン』という音がこれにあたります。この音(中性刺激)を聞くだけで、眉間にしわをよせて、しかめ面をしてしまう人は多いのではないでしょうか?この『ウィ〜ン』という音 も、元々は何の意味も持たなかったはずですが、歯医者での痛みや恐怖心(生得性好子)と同時に提示されたことで、『ウィ〜ン』の音は私達にとっての習得性嫌子となりました。

また、私の実家で飼っている猫は、小さい時に、父にあやまって掃除機でシッポの部分を吸い込まれてしまいました。よっぽど怖かったのでしょう、いまだに掃除機の音を聞いただけで、すっとんで逃げていきます。
このように強烈な生得性嫌子の場合は、たった一度、同時に提示されただけで、強く結びつき学習してしまうこともあり、恐怖症やトラウマになってしまうこともあります。

一度、恐怖症やトラウマのように、強く学習してしまうと、この習得性嫌子を元の無意味な刺激に変えるには学習してしまった習得性嫌子だけを、少しずつ程度の弱いものから単独で提示する方法や、再度、対提示手続きを用いて、この嫌子を好子と少しずつ、同時に提示する方法などがあります。

[先ほどの歯医者の例でいえば『ウィ〜ン』という音だけを少しずつ小さい音で聞かせたり、同時に好子となるチョコレートを与えたりといったかんじです。 これは、この音を聞いても怖いことは、嫌な事は何も起こらないということを学習させるためです。]

というような手続きがありますが、かなりの時間がかかります。
ですので、トレーニングにおいては、嫌子はできるだけ使用しない方がいいのです。 罰の副作用でお話したように、嫌子は使い過ぎたり、嫌子がエスカレートしたりということが多々ありますし、動物が嫌がる物や、事がたくさん出てくる
トレーニングは、ここにも対提示手続きが働いて、トレーニング自体が嫌子になってしまうからです。

トレーニングは好子のたくさんある、楽しいもので、動物が喜んで行うものでなければならないと思います。
トレーナー、飼い主は動物に習得性嫌子を作らないようにする事を心がけ、事前に防がなくてはなりません。

周りに、動物の怖がりそうな物はありませんか?
上から落ちてきそうな物はありませんか?
足元に動物はいないですか?
自分では、嫌子を与えようとしていなくても、あやまって上から物が落ちてきて・・・ 動物に躓いて・・・しっぽをふんで・・・なんてことで自分を習得性嫌子にしてしまう事もあります。みなさん、動物と触れ合うときは十分気をつけましょう。
これを読んで、『じゃ、動物に注射をしたり、つめを切ったり、これらも動物が嫌がるのだから、してはいけないの??』と疑問をもたれた方、それは、違います。対提示手続き・オペラント条件付けを上手に使って、これらの行動を、動物に嫌がらず協力してもらうことを教える事ができるのです。このトレーニングをハズバンダリートレーニングといいます。次回はこのハズバンダリートレーニングについてお話したいと思います。

お楽しみに!





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