行動の直後に嫌子が出現したり、嫌子が増加したりすると、その後、その行動の頻度が減少することを「罰(弱化)」といいます。

皆さんはご自分の飼っている動物が何か問題行動をした時、どのように対処していらっしゃいますか? 僕は子供の時に家で犬を飼っていたのですが、その時のしつけ方法はもっぱら「体罰」でした。 まわりの大人達から「これが犬をしつける唯一の方法」と教えられていました。 確かにその犬は「怖い」人の言うことを良く聞きました。しかしその犬はどこか怯えた様子でその「怖い」人と接していたことを覚えています。僕の言うことは全く聞きませんでしたが、かといって叩いたり脅したりはしたくありませんでした。まわりの大人達は僕が犬を怒った時に「それでいいんだ」と僕を褒めてくれました。僕は犬に言うことを聞かせたいがために、まわりの大人達に褒められたいがために、より「怖い」人にならなくてはいけないと思ったのでした。

あれから20年が経ってイルカのトレーナーになってみて思うことは、現代のアニマルトレーニングというものが非常に科学的に、合理的に、そして計画的に行われているということです。

我々の施設ではイルカ達の行動に対して、体罰(Physical Punishment)を一切使用しません。他の罰(例えばトレーニングセッション中にイルカ同士でケンカをはじめた場合など、バケツを持ってプールから離れます。これをタイムアウトといいます)についても使用はかなり制限しています。これには「かわいそうだから」という人道的な理由以外にきちんとした科学的な理由があるのです。何故我々が罰をほとんど使用しない方法を選んだのか?

今回は罰の副作用についてお話しましょう。

副作用@)
繰り返し与えられる「罰」に人も動物も慣れていきます。つまり効かなくなるのです。 よくあることですがいつも怒っているお母さんの「小言」は子供にとってだんだん「嫌子」にならなくなります。「慣れ」が生じるからです。効かない時点で「罰」は「罰」でなくなります。 小言が効かなくなりますから次はもっと強い罰(例えばひっぱたくとか)それにも慣れたらもっと強い罰とどんどんエスカレートします。これが「虐待」につながるケースもあるのです。

副作用A)
人も動物も罰が与えられる「状況」を学習します。ABC分析でいうところのA(先行条件)ですね。 つまり「この人がいる時にゴミ箱をあさると怒られて叩かれるけど、あの人だけの時なら大丈夫」とか。「家の中では怒られるけど、家の外なら大丈夫」とか。きちんと区別するのです。「怖い」人がいないところでは問題行動はなくならないどころか、よりひどくなる場合も多いのです。

副作用B)
「逆襲」などの危険性が出てきます。対象動物が大動物(キリン・ゾウ・イルカ・シャチ等)の場合はさらに危険になります。 過度な罰の使用は動物を攻撃的にします。動物の中での行動随伴性はこのような感じでしょうか。

「罰を与えられた時に」 「人を攻撃すれば」 「罰を与えられなくて済む」

副作用C)
動物を無気力に、臆病にしてしまう場合があります。 飼い主さんもトレーナーもそうですが、「罰」の使用が許されると頻繁にそれを使用するようになります。 何故でしょうか?人は相手の「良い所」を見つけるより、「悪い所」を見つける方がたやすいようですね。行動するといつも嫌子が返ってくる。(何をしても怒られる)そんな随伴性ではその動物の元気がなくなるのも当然です。何をやってもうまくいかなければ誰だっていずれは無気力で臆病になって全く動かなくなってしまいます。

副作用D)
罰によって学習するのは「良い行動」ではなく、「罰を回避する行動」です。皆さんの子供の頃を思い返してみてください。親が家にいない時に何かを壊してしまったとします。例えばお皿とか。割れたお皿をどこか見つからないように隠そうとしたことありませんか?

もう一度繰り返しますが、「罰を与えられて学習すること」は「罰を回避する行動」でしかありません。その結果が副作用A〜Dになります。

質問@「でも動物が何か悪いことをしたら一体どうするの?」
質問A「イルカは頭いいから怒らなくてもわかるかもしんないけど、犬はねー・・・」
質問B「副作用はわかったけど・・・、でも上手く「罰」を使えば問題ないんじゃないのー?」
質問C「でも罰を使わないんじゃ・・・結局、餌で釣るしかないんじゃないの?」

こんな声もちらほらと聞こえてきそうです。ここは動物の訓練において非常に重要なテーマです。ゆっくり時間をかけて皆さんと一緒に考えていきましょう。ではまた次回お会いしましょう。

トレーニングに関してご質問がある方はこちらまで(masaru@dolphinspacific.com)お便り下さい。(藤井 勝)





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